公共空間が多く存在するイタリアで探究したい
日本の大学で建築を学んでいます。これまで私は、建築物の外観や造形を重視して設計することが多かったのですが、いつしか、ヨーロッパの建築物は何を基盤に設計が行われているのかを知りたくなりました。
留学先にイタリアを選んだ理由は、イタリアの公共空間デザインとそれに付随する文化に興味があったからです。ミケランジェロ広場やスペイン広場、屋外市場や街路からはみ出したカフェなど、魅力的な公共空間が多く存在し、夕食後、そこに集まって友人たちと談笑するという豊かな文化があります。
この目で街を見て、そこで生活を営むイタリア人に実際に触れてみたいと思いました。そして、どのような設計を行えば、長く愛される建築物となり得るのかという探究心と、自分自身の新たな「設計の羅針盤」をつくりたいという想いから留学を決めました。
イタリアの人々との思い出深い交流
始めのうちは語学力が足りず、授業の内容をほとんど理解できず、ディスカッションにも加われませんでした。教授にお願いして授業の資料をもらい、自宅で読み返して学ぶ日々が続きました。一方、料理パーティを開いて互いの国の料理を振る舞うなど、授業後のクラスの仲間たちとの楽しい時間はよい思い出です。
公共空間の調査で、テント泊をしながらイタリアの小さな街を巡っていた時のこと。ある街でイタリア人家族に事情を説明し、おすすめの場所を尋ねたところ、案内をしてくれた上に自宅に泊めてくれました。初対面の外国人を家に招いてくれる懐の深さと優しさに感動しました。その後も交流が続いており再訪したいと思っています。


イタリア留学で学んだこと
街づくりの視点から考える、建築物のあるべき姿
イタリア人は、自分の人生を楽しもうといつも意識しています。留学中、「大事なのは友達と家族とワイン(食事)」という言葉をよく耳にしました。その友人たちと交流する場所として公共空間があり、街が成り立っています。イタリアの街はこのように「人間関係を育む装置」として機能しており、そこで暮らす人々にとって精神的な中心になっていることがよくわかりました。
人と街が健康的な関係にある、イタリア人にとっての設計は、「地域」という広範囲のレベルから分析を始め、最後の設計の段階で必ず過去の事例を参照しています。いつしか私も同じように考えるようになり、設計は「新しい理論の構築ではなく、歴史の上に付け足していく作業」であると学べたことは大きな成果になりました。