イタリア人の何倍もの努力が必要な専門性に挑む
私は文化財修復士になるのが夢でした。留学を決意した当時は、日本で西洋彫刻の修復を学べる科はゼロに等しく選択肢も狭く、次第にヨーロッパで学ぼうという思いが強くなりました。日本の大学で彫刻を学んでいた頃、初めて訪れたイタリア。イタリア人の陽気な人柄や、芸術と生活が深く結びついた独特の文化にも惹かれましたが、留学先に選んだ一番の理由は、修復の歴史の長さとローマ中央修復研究所を創設したチェーザレ•ブランディの修復理論に、とても感銘を受けたからです。
美術学院の修復コースでは、実技以外にも物理化学、修復応用化学、診断学、鉱物学、文化遺産に関する法律など修復士に必要な基礎知識を5年間で学べるカリキュラムが組まれています。私は、数年イタリア語を学んだ後の留学でしたが、各科目を理解し、口頭試験に挑むには大変苦労しました。修復の専門用語は一般辞書に載っていないので、イタリア人の倍以上の勉強量が必要でした。


本場でしかできない、採掘場での実習
イタリアは美術品の宝庫です。教会や修道院など、実際の現場で実習を積むこともできます。私はヴェスヴィオ火山麓の採掘場で保存作業に取り組みました。採掘場では紀元79年の大噴火で埋まったフレスコ画や大理石の床モザイクなどが出土し、私たち修復科の学生も保存措置を行います。炎天下での作業は大変ですが、表面の土を取り払った後に出てくる鮮やかな当時の色彩、掘り起こされた大理石モザイクの繊細さには、とても感動しました。
先人の知恵や技術、生み出された芸術を後世に伝えていく役割の素晴らしさと、その充実感。そして、苦楽を共にしたイタリアの仲間たち。確実に自分が前進していると感じられる今があるのは、困難なことを一つひとつクリアしてきた留学生活のおかげだと思っています。

