ローカル線で行く南イタリア

数千年の歴史と文化

個性豊かな20の州と彩りあふれる「食」

歴史的に、大小さまざまな都市国家が競い合い切磋琢磨して個性豊かな文化を生み出してきました。

緑豊かなプーリア州、バジリカータ州、カラブリア州は海岸線を縫うように鉄道が走っている。青い海とオリーブの巨木が織りなすコントラストは南イタリア特有の絶景だ。今回はプーリアの旅の拠点、バーリからスッド・エスト鉄道とアップロ・ルカーネ鉄道で旅にでる。

いわゆる裏イタリアと呼ばれるアペニン半島東側は沿岸部を除いて鉄道網はあまり発達していない。しかし例外なのが南イタリアのプーリア州。ここはイタリア最大の野菜とオリーブオイルを生産する広大な平野部が広がっている。オリーブの巨木が車窓に広がるプーリアの大地を鉄道で駆け巡ってみよう。 まず旅の起点は州都バーリ。以前は治安が悪い危険な街と、ありがたく無い名前で呼ばれていたが近年は再開発で街も綺麗になった。バーリへ向かうにはローマからアペニン山脈を超える方法と、アドリア海を南下する2つのルートがあるが、時間的にはローマ経由のほうが早い。
プーリア州を旅する際、起点となるのは3路線が乗り入れているバーリ中央駅。アルベルベッロやマテーラへ出かける際のスタート地点だ。バーリ旧市街も以前と比べると綺麗になり、市場などを見て歩くと南イタリアの食の豊かさが実感できる。

バーリ中央駅はトレニタリア以外にスッド・エスト鉄道、アップロ・ルカーネ鉄道、北バーリ鉄道、の3路線が乗り入れるターミナル駅。スッド・エスト鉄道は映画になったこともあるほど地元で愛されている鉄道で、創業1931年と古く現在も総延長477kmが営業している現役の生活路線である。このスッド・エスト鉄道でまず目指すのはトルッリで有名なアルベロベッロ。バーリからちょうど1時間、車窓にトルッリが見えてきたら間も無くアルベロベッロだが、周辺にはロコロトンドやマルティーナ・フランカといったトルッリの街があるので立ち寄るのもいい。さらに足を伸ばせば南イタリアのフィレンツェとも呼ばれる美しいバロック都市レッチェや、イタリア最東端のオートラントまでスッド・エスト鉄道で行くことができる。

孤高都市マテーラを目指すならアップロ・ルカーネ鉄道。こちらも創業1915年と古く、バーリ中央駅を出た左手に専用の古い駅舎がある。非電化路線なので、ディーゼル車に揺られること1時間30分。途中駅アルタムーラの手前15kmあたりからは見渡す限り緑の丘が続くアルタ・ムルジア国立公園の素晴らしい景色が車窓に広がる。終点のマテーラ中央駅から旧市街サッシまでは歩いても10分程度。かつてカルロ・レー ヴィが『キリストはエボリに止まった』に描いた感動的な街並みは、往復3時間かけても見に行く価値がある。
バジリカータ州の世界遺産都市、マテーラを旅するならアップロ・ルカーネ鉄道がいい。通学や通勤など、地元のイタリア人が日常的に利用する生活路線なので、普通の旅行では出会えないイタリア人の暮らしぶりを垣間見ることができる。車窓からはトマトやアーティチョークなどの野菜畑や、巨木が並ぶオリーブの林も見える。

写真・文/池田匡克 Masakatsu Ikeda